(撮影:大河内 禎)
かもめ食堂』『老いてお茶を習う』など、小説、エッセイなど幅広く執筆を続け、今年でデビュー40年となるという群ようこさん。「捨てる」ことにまつわる小説を連載したところ、「実はうちも」という声をよく聞いたと話します。「モノは捨てたほうがいい」という最近の風潮とは、違った視点で物語を綴ったそうで――。(構成:篠藤ゆり 撮影:大河内 禎)

捨てる/捨てないをめぐるストーリー

今年でデビューから40年になります。そのなかで、「捨てる」ことにまつわるエッセイはいくつも書いてきました。世の中にも《断捨離》関連の本はたくさん出ていますが、小説なら異なる視点で書けるのではないか。そう思って始めた連載が、一冊にまとまりました。

5話それぞれ異なる立場の人が登場し、「捨てる/捨てない」をめぐるストーリーが展開しますが、読んだ方からは、「実はうちも」といった声がよく聞かれます。

ある知人は、「引っ越しの際、夫がモノを減らしてくれなくて。子どもの昔の作文や絵を、画像に残して処分したら、『なんで捨てたんだ』とゴミ捨て場から拾ってくるの」と。彼女は、同居を始めるカップルが、趣味のモノを捨てる/捨てないで揉める、「本好きとフィギュア好きの新居問題」を読んで、一瞬、別居が頭をよぎったとか。

自分のモノは自分の考えで処分できますが、同居人のモノについては、相手をどう説得して捨てさせるかが大きな問題です。

「溜め込みすぎる母」という一篇に対しても、「うちも捨てるのに苦労したのよ」という声が多かったですね。

私自身も、まだ実家にいた頃、母が大量の紙袋を「使うかも」と溜めていて。それも、「和光」とか「三越」とか高級デパートのものばかり。あんたそれ、ただ見栄を張っているだけじゃないのって。(笑)

「夫の部屋」は、夫の入院中に妻と娘が部屋に侵入する話です。夫に浮気の「動かぬ証拠」を突きつけて一矢報いよう、と。ちょっとした復讐譚ですね。