現代アフリカの現実をうつす、戦慄の事件がミステリーに
これほどまでに理不尽でむごい話があるだろうか。戦慄のラスト10ページあたりから固唾を呑んでいたらしく、読後に、はあっと大きく息を吐かずにはいられなかった。そしてしばし呆然──うろたえながら、再びはじまりのページに戻れば、プロローグの言葉が、よりおぞましさを増して目に飛び込んでくる。【儀礼殺人(ぎれい・さつじん)】/ある儀式にのっとって、/人体の一部を得るために/行われる殺人(編集部)。
本書は、ボツワナの現職女性大臣が実際の儀礼殺人事件を題材にして描いた、アフリカ発の異色サスペンスだ。風習に隠されてきた「叫び」を引き出すために、あえてエンターテインメントのかたちにしたと著者は語る。
物語の舞台は世界遺産であるオカバンコ・デルタにある小さな村。ある日、12歳の少女が行方不明になったが、警察は「ライオンに襲われた」と早々に捜査を打ち切った。しかし5年後、国から村に派遣された若い女性アマントルが、勤務先の診療所で血のついた少女の服を発見し、事件の真相を追うことになる。
何が恐ろしいかといえば、〈儀礼殺人〉が、呪術的パワーを得るために、長い間行われてきた、ということだ。忌まわしい因習、女性差別、パワハラの問題が複雑に絡み合っているこの凄惨な事件が、昔のことではなく、現代アフリカの出来事だということ、それらが絶対的権力によって簡単に闇に葬られてしまう過程にもぞっとさせられる。
そんななか、真相解明のためにアマントルと友人たちの若いチームが、権力と不正に立ち向かう姿は勇ましい。濃い闇を照射するのは、虐げられてきた弱者と女性たちの希望の光そのものなのだろう。
『隠された悲鳴』
著◎ユニティ・ダウ
訳◎三辺律子
英治出版 2000円
著◎ユニティ・ダウ
訳◎三辺律子
英治出版 2000円