(写真提供:Photo AC)
地図を読む上で欠かせない、「地図記号」。2019年には「自然災害伝承碑」の記号が追加されるなど、社会の変化に応じて増減しているようです。半世紀をかけて古今東西の地図や時刻表、旅行ガイドブックなどを集めてきた「地図バカ」こと地図研究家の今尾恵介さんいわく、「地図というものは端的に表現するなら『この世を記号化したもの』だ」とのこと。今尾さんいわく、「現在の平成25年図式以来、高さ60メートル以上の縛りができたため、高塔記号の使用頻度は大幅に下がった」そうで――。

高塔に見るランドマーク今昔物語

幕末の安政6年(1859)、江戸幕府は日米修好通商条約に基づいて横浜港を開いた。

たまたま筆者は開港100周年にあたる昭和34年(1959)生まれで横浜市立小学校に通っていたので、開港50周年に森鴎外が作詞した格調高い「横浜市歌」の子供にはちょっと難解な歌詞を覚え、式典があればこれを歌ったものだ。

横浜出身を名乗る人の真偽を確かめるには、これを全部歌わせてみればいい。

その100周年を機にぜひ記念碑的建築をと昭和36年に建設されたのが、港と中華街などの街並みを俯瞰する横浜マリンタワーである。

高さ106メートル、展望台であると同時に灯台の機能もあったため、「世界一高い灯台」としてギネスブックにも記載されたという(灯台機能は平成20年に終了)。

それではこのマリンタワー、地形図ではどの記号で描かれてきたのだろうか。

最近まで灯台だったので、長らくその記号であったかと思いきや、灯台が現役の頃から「高塔」の記号であった。

マリンタワーが灯台専業でなかったので担当者は迷ったかもしれないが、灯台を意図したデザインとはいえ、あれだけ高ければ灯台記号の適用は躊躇するだろう。

高塔の記号は文字通り高い塔が対象だが、この言葉で一般に思い浮かべられるのは、電波塔や送電線を支える鉄塔の類ではないだろうか。

ところが電波塔には独自の記号があり、送電線の鉄塔については、好目標である巨大なもの(平成14年図式では下部の短辺20メートル以上)のみ高塔記号で表現されたが、今はその対象外だ。

実際に野外ではとても目立つので惜しいことをしたが、送電線のラインは描かれており、それが屈曲した地点には必ず鉄塔が建っているので我慢しよう。

高塔の記号で表現されるものの代表格といえば、東京スカイツリーや東京タワー、名古屋のテレビ塔などであるが、いずれも本来は電波塔だ。

それでも最新の地形図に適用される「平成25年2万5千分1地形図図式(表示基準)」の説明を見れば「五重塔、電波塔、展望台等の高い塔(送電線鉄塔を除く。)で、高さが概ね60m以上のものを表示する」とあった。

電波塔であっても、高いものは高塔記号なのである。