「冷かけそば」1760円は、7月から9月中旬までの季節限定メニュー。あっさりとして深みのある出汁は、飲み干したくなる美味しさ。奥は「夏野菜天の盛り合せ」1980円。アスパラガス、ズッキーニ、オクラに茗荷、伏見唐辛子など旬の野菜が9品ほど並ぶ。単品もあり

ガラスの器に透けるように張られた、たっぷりのかけ出汁。その中に揺蕩う麺も涼やかなご覧の一杯が、「成冨」の夏の風物詩「冷かけそば」だ。

具は一切なし。薬味さえもつけぬその潔さに、ご主人成冨雅明さんのこだわりが伝わってくる。

元来、蕎麦屋の出汁といえば、鰹の厚削りや鯖節、宗田節などを用い、力強い出汁を取るのが常套だが、成冨さんは雑味なくクリアな味を求め、使うのは羅臼昆布と薄削りの本枯節、それも、血合い抜きという徹底ぶりだ。割烹の吸い地を思わせる品のよさながら、そこに干し椎茸を加えて旨みの底味を引きあげている。

一口啜れば、輪郭のはっきりした凜とした味わいの中、ふくよかな出汁の旨みが舌に広がる。その出汁に、十割で打つ蕎麦がキリリと絡む。

蕎麦は、成冨さんが吟味を重ねて選んだ茨城は山方の「常陸秋そば」。風味の高さと穀物感豊かな味わいが特微だ。

出汁と蕎麦、それだけで十分美味だが、これからの季節、蓴菜(じゅんさい)を浮かべた冷かけそばも夏ならではの佳品。合いの手には、旬の素材が楽しみな揚げたての天ぷらもおすすめだ。

ぶっかけスタイルの「揚げ玉と薬味の冷しそば」1650円。薬味は、茗荷、白髪ネギ、大葉など。よく混ぜて味わいたい。ぶっかけは、ほかに「辛味大根のおろしそば」「ごぼう天と葱天の冷しそば」などもある。蕎麦はどちらも茨城県山方の常陸秋そば。北海道摩周産のキタワセのこともある