義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
午後八時になろうとする頃、ドアが開いて、一人の男が店に入ってきた。その人物を見た原磯の顔が真っ青になった。額に汗が浮かびはじめる。
阿岐本が原磯に尋ねた。
「高森ですか?」
原磯ががくがくとうなずく。
その男は、ゆっくりと店の奥に進んできた。そして、阿岐本たちがいる六人掛けのボックス席の手前で立ち止まった。
日村のすぐ近くだった。
たった一人でやってきたのが意外だった。もしかして、組員たちは店の外で待機しているのだろうか……。
彼は仁王立ちのまま、しばらく原磯と大木を見つめていた。威嚇していると、日村は思った。
「あれ……」
そのとき、多嘉原会長が言った。「小僧じゃねえか……」
阿岐本が聞き返す。
「小僧……?」