走行会後、充実した表情でスピーチをする青木拓磨さん(撮影:木村直軌)
足が動かない人や目の見えない人が、バイクでさっそうと風を切る――。そんな光景を創り出した団体があると聞き、走行会に行ってみた。主催は一般社団法人Side Stand Project(通称SSP)。夫の勧めで、友人に誘われて、など参加のきっかけはそれぞれだ。ライダー、ボランティアスタッフ全員が一体となって楽しむイベントに参加する人たちの思いは(撮影=木村直軌)

前編よりつづく

「無理です」とは言わない

SSPでは、教習所やサーキットの敷地を借りて、毎月のように全国各地でイベントを開催している。教習所で開催する初心者向けの練習会や、今回のようなコースを使った走行会、公道を走る「やるぜ!! 箱根ターンパイク」など、習熟度に応じてさまざまな形態があるのだ。

2019年にプロジェクトが発足して以来、参加者は約160人、ボランティアに携わった人は約1600人にのぼる。

「リピーターの方に加えて、新規で待っている方が常に30~40人ぐらいいる状態です。練習用の補助輪付き車両は1台しかないし、運営側のキャパシティの問題もあって、毎回数名しか呼べない。申し訳なく感じています」と、治親さんは言う。

数人のパートスタッフはいるものの、運営はほとんど現役オートレーサーである治親さん1人で行っている。活動は参加費用を徴収しておらず、企業や個人の寄付頼みだ。

その協力を募るために企業を回るのも治親さんの重要な役目だが、二足の草鞋を履く生活は楽ではない。

「収入はオートレースのみで、SSPは完全なボランティア。僕もいつまで元気でやれるかわからないし、今のうちに組織として基盤を作っておかなければと思っているのですが……」

そんな苦労をしてまで、活動を続けるのはなぜか。

青木三兄弟がロードレースの道に進んだのは、幼少期に父が買ってきたポケットバイクに夢中になったのがきっかけだった。小学生のレース大会に出場したのを皮切りに、負けず嫌いだった三兄弟全員がロードレーサーを目指すようになり、1997年には3人揃って世界選手権を走るまでになった。

だが翌98年、拓磨さんを悲劇が襲う。テスト走行中の事故で脊髄を損傷し、下半身不随となったのだ。