治親さんが走行中のライダーに無線で指示を出す

目が見えなくても、バイクが初めてでも

治親さんたちは、視覚障害を持つ人の夢も叶えた。細川紀子さん(50代)は、網膜色素変性症のため、40歳ごろから徐々に視力を失った。バイクは乗ったことがないけれど車は好きだった彼女は、視覚障害者のメーリングリストでSSPの活動を知る。細川さんは翌日電話で問い合わせ、練習会に応募した。

「夫は少し心配しましたが、子どもたちは『ママすごい』と賛成してくれて。補助輪を付けた大きなバイクにまたがった瞬間、全身から喜びが湧き上がり、不安なんて飛んでしまいました。

『右手のアクセルをまわして』『ブレーキの用意』など、インカムから聞こえる指示に従い、体で風を感じるのが最高に気持ちよかった。周りでスタッフの方々が応援してくださっているのもよくわかって、一緒に走っているような一体感もすばらしかったです」

拓磨さんも、「可能性は人が決めるものじゃない。自分自身で探っていくものです」と語る。

事故の後、四輪での復帰を目指すも、「障害が身体の50%以上ある人は不可」という理由で、日本でライセンスが下りず、活動の場を海外に移した。昨年のアジアクロスカントリーラリーでは、健常者ドライバーに交じって総合優勝を勝ち取っている。

「障害者にどう接すればいいかわからない、という人もいると思います。でも、必要なのは特別なことじゃないんです。みんながお互いを認め合い、誰も置いてきぼりにならない社会を作ること。たとえば車椅子のためにインフラを整備すると、『特別扱いするな』と声が上がることがありますが、そうじゃない」