義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。


     23

 酒宴が始まり、日村は席を離れようとした。すると、多嘉原会長が言った。
「代貸もいっしょにどうぞ。今回の件では、ご苦労されたのでしょう」
「いえ、自分は何も……」
 阿岐本が言った。
「いいから、おめえも飲め。たまには老いぼれの酒に付き合うんだよ」
「はい」
 アヤが作ってくれた水割りを受け取る。
 大木と原磯は、ヤクザに囲まれて居心地が悪そうだ。高森も大物二人を前にすっかり小さくなっていた。
「しかし……」
 多嘉原会長が高森に言う。「あんたのところも、たいへんだね。事務所もないって?」
「はい。面目ないことで……」
「いっそ、ヤクザなんぞやめちまえばいい」
「そのほうが楽かもしれないと考えたこともありますが、オヤジの恩もありますし……」
「田家村さんはお元気なんだね?」
「はい。代替わりして隠居しましたが、元気でやってます」
「そうか。それじゃあ看板を下ろすわけにはいかねえよなあ」
「そうなんです」