近年、健康寿命と口の機能の関係に注目が集まり、口腔ケアの意識が高まっています。一方で、「いつもの癖で適当に歯磨きをしている」「何年も歯科医院に行っていない」という人も多いのではないでしょうか。歯磨き指導のプロに、健康長寿に繋がる口腔ケアの心構えを聞きました(構成=浦上泰栄 イラスト=オガワユミエ)
口の健康が損なわれると全身の虚弱が始まる
みなさんは「オーラルフレイル」という言葉を知っていますか。オーラルは「口腔の」、フレイルは「虚弱」という意味の英語「frailty」が語源で、むし歯や歯周病で歯を失って食べものをうまく噛み切れない、あごやのどの筋肉が衰えて食事中にむせたり、飲み込めなかったりする状態をいいます。
こうした状態では食事が美味しく感じられず、食べる量も減って栄養が偏る、栄養不足に陥るなどの問題が起こるのです。歯と口の健康が損なわれても命にかかわることはない、と考える人がいるかもしれません。
けれど、うまく噛めないと炭水化物中心の軟らかい食べものに食事内容が偏り、筋量や筋力が落ちて心身の機能低下を引き起こします。同時に、高血圧や脂質異常症、脂肪肝などの生活習慣病のリスクが高まることに。
また近年では、歯周病と、糖尿病、動脈硬化、脳卒中、誤嚥性肺炎、認知症など全身の病気との関連を示す報告がされています。
まるでドミノ倒しのように生活習慣病の負の連鎖が続くことを「メタボリックドミノ」といいますが、むし歯や歯周病から始まる口腔機能の衰えは、そのスタート地点に立つことなのです。
ドミノ倒しは始まってしまうと途中で止めることが難しいため、一番手前にあるドミノを倒さない、つまり口の健康を維持することが大事。これこそが今、「健康寿命を延ばすデンタルケア」が注目される理由です。
【 口腔疾患は「メタボリックドミノ」の始まり 】
「むし歯」「歯周病」などの口のトラブルから始まる「メタボリックドミノ」は、放っておくと脳卒中や認知症などの重病に繋がっていく