『死にゆく者の祈り』著◎中山七里

 

重いテーマも作者の手腕で極上のエンタメに

「教誨師(きょうかいし)」という任職をご存じだろうか。ある辞書によれば「刑務所で受刑者などに対して徳性教育をし、改心するように導く人」とある。また、身内以外で死刑囚と唯一面接できる民間人であり、刑の執行にも立ち会うという。

物語の主人公はその教誨師でもある僧侶・高輪顕真(たかなわけんしん)。彼が面接を続けてきた死刑囚の刑が今、まさに執行されようとしている――という衝撃的なシーンからはじまる。タブーに踏み込んだドキュメンタリーのような冒頭に心を鷲摑みにされ、そのまま怒濤の一気読みだ。

その後、顕真は留置所で大学時代の友人、関根要一を見かける。刑務官は〈ひと組のカップルを殺害して死刑判決を受けました〉という。山岳サークルで一緒だった関根は、かつて雪山で顕真の命を救った恩人だった。そんな彼がなぜ死刑囚に? 疑問に思った顕真は刑事とともに再調査をはじめる。

前半、拘置所の様子や仏の教え、顕真の内面を交錯させながら、「教誨師」という仕事の意義、過酷さを紹介するように綴られる。そして友人の無実を信じて、証拠集めに奔走する主人公は、しだいにその行動が教誨師の立場から逸脱していく。自ら「破戒坊主」と名乗り、友人への思いだけで真相に迫ろうとするその姿には、心打たれるものがあった。そんななか関根の死刑執行日が決まり、冒頭と同じように、今まさに刑が執行されようとしている――というデッド・リミットのラストは、わかっているけれど、ハラハラさせられた。日本の死刑制度、冤罪、救いについて考えさせられる。社会的な重いテーマを、極上のエンタテインメントに昇華させている作者の手腕に脱帽、なのである。

『死にゆく者の祈り』
著◎中山七里
新潮社 1600円