リリー・オンコロジー・オン・キャンバス 絵手紙部門優秀賞『おとなになった あなたへ』
絵手紙部門優秀賞『おとなになった あなたへ』谷口 佳江(たにぐち よしえ)さん
がんと告知された時の不安、がんと共に⽣きる決意、そしてがんの経験を通して変化した⽣き⽅など、⾔葉だけでは伝えきれない想いを絵画・写真・絵⼿紙で表現する「場」があります。がんサバイバーの方の思いが詰まった作品を紹介します。

育児も治療も辛く心も身体もぼろぼろ

乳がん告知は33歳の春、娘は2歳になったばかり。ステージⅢc、リンパは数えられない位転移していた。ベビーカーをおして通院する日もあれば、病院で「かわいそうにね」と言われた事もあった。まわりを見れば、元気な親子。娘のイヤイヤ期、一緒に走り回って遊べない、いい母親になれない、惨め、悔しさ。育児も治療も辛くて、心も身体もぼろぼろだった。

娘の18歳まで何とか生きねばと思ったが、4年後のランドセル姿も想像できなかった。現実と向き合えず、未来の娘へ手紙も書けなかった。

「何年後と考えるのはやめよう。一日一日を生きよう。」と夫が言ってくれた。心の荷は少しおりたが、自分がいなくなった時の事を考えずにはいられなかった。万が一の時、生きているうちに、この子が一人になっても、「生きる力」をつけておきたかった。

3歳になってすぐに台所へ立たせた。小さな脚立に立って、大人の包丁で練習した。「食べることは生きること」。自身の病気と向き合う時も「食」は欠かせなかった。卵焼き、お味噌汁、お弁当、どんな料理も一緒に作り、治療中も台所に立ち続けた。