(写真提供:Photo AC)
現在放送中のNHK大河ドラマ『光る君へ』。吉高由里子さん演じる主人公・紫式部が書き上げた『源氏物語』は、1000年以上にわたって人びとに愛されてきました。駒澤大学文学部の松井健児教授によると「『源氏物語』の登場人物の言葉に注目することで、紫式部がキャラクターの個性をいかに大切に、巧みに描き分けているかが実感できる」そうで――。そこで今回は、松井教授が源氏物語の原文から100の言葉を厳選した著書『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』より一部抜粋し、物語の魅力に迫ります。

王命婦の言葉

<巻名>紅葉賀

<原文>ただ塵(ちり)ばかり、この花びらに

<現代語訳>ほんのひと言でも、お返事を

男女の恋が実現するには、その二人の間に立ち、男君を女君へと導く、仲立ちの人物が必要でした。

仲立ちの多くは、女房や乳母子(めのとご)といった、女君のおそば近くに、いつもお仕えしている女性が選ばれました。

男君は仲立ちに恋の歌をあずけ、女君からの返事を待ちました。

やがて歌のやり取りが続くと、男君は女君と二人だけで会うチャンスを演出してもらいます。恋の成立には、男女の仲を取り持ってくれる人物が不可欠だったのです。