藤壺からの返歌
王命婦は「ただ塵ばかり、この花びらに――ほんのひと言でも、お返事を」と願い出ます。
花びらとは、源氏がなでしこの花に和歌を付けたことからの、あらたまった言いまわしです。
するとどうでしょう。なんと藤壺からの返歌があったのです。
王命婦は喜びながら、この歌を源氏に差し上げたといいます。二人の心を、ともに理解することのできた人物だからこその喜びです。
この後、出家した藤壺を追って王命婦も出家しますが、藤壺の代理として、皇太子となって宮中にいる幼い皇子にお仕えします。
藤壺の王命婦への信頼が、どれほど厚かったかが、うかがわれます。
※本稿は、『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』(著:松井健児/中央公論新社)
源氏物語の原文から、68人の人びとが語る100の言葉を厳選し解説。
多彩な登場人物や繊細な感情表現に触れ、物語の魅力に迫ります。