藤壺からの返歌

王命婦は「ただ塵ばかり、この花びらに――ほんのひと言でも、お返事を」と願い出ます。

花びらとは、源氏がなでしこの花に和歌を付けたことからの、あらたまった言いまわしです。

するとどうでしょう。なんと藤壺からの返歌があったのです。

王命婦は喜びながら、この歌を源氏に差し上げたといいます。二人の心を、ともに理解することのできた人物だからこその喜びです。

この後、出家した藤壺を追って王命婦も出家しますが、藤壺の代理として、皇太子となって宮中にいる幼い皇子にお仕えします。

藤壺の王命婦への信頼が、どれほど厚かったかが、うかがわれます。

※本稿は、『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』(著:松井健児/中央公論新社)

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