詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬3匹(クレイマー、チトー、ニコ)、猫2匹(メイ、テイラー)と暮らす日常を綴ります。今回は「群れの末弟」。保護猫エリックと暮らし始めて1ヵ月、家の中に訪れた変化とは――(画=一ノ関圭)
エリックを拾って一ヵ月経った。
仔猫はいい。家に子どもがいるのはいい。子どもの体形して子どもの動きをする生き物が、家の中で走ったり跳んだりしている。それを見るだけで、生きてるな、笑ってるなと感動がわいてくる。生きて笑ってるのは仔猫なのに、みんなが巻き込まれていく。
仔猫が来て数日の間、先住猫のメイとテイラーは「ああもう生理的にダメ」みたいな拒否反応を示した。
元野犬のチトーは興味津々で、口を半開きにして仔猫の頭に乗せ、仔猫が動くとそのまま一緒に自分も動いていくという、わけのわからない行動を取っていた。なめてるというより味見してるみたいだった。
クレイマーは無反応。来るものは拒まずということか。チトーが来たときもこうだった。顔は無反応だったが、ほんの数日で、人間につかまったトラウマで固まってる野犬の仔犬に、自分のベッドを分け与えてくれた。それでチトーはこの家に居場所を見つけたわけだ。そのベッドはチトーのいたずらでずたずたに噛み破られてしまったけど。