国際的な文学賞も注目! 米国発グラフィックノベル
欧米では人気が高い、漫画と小説を合体させたグラフィックノベル界から、権威ある文学賞のブッカー賞にノミネートされる作品が出現しました。それが、ニック・ドルナソの『サブリナ』です。
まず登場するのは、一組の姉妹。姉にはテディという名の恋人がいるようで、今は両親の留守を預かって実家で猫の世話をしています。次に登場するのはテディです。恋人のサブリナ(前出の姉)が行方不明になって1ヵ月。心配のあまり精神不安定になっており、遠くコロラド州の空軍基地で働いている幼なじみカルヴィンの家に身を寄せることになったんです。
妻が幼い娘を連れ実家に帰っているという問題を抱えた状況にあるにもかかわらず、テディに対して親切なカルヴィン。しばらくは、この2人の生活と姉がいなくなってから抑鬱状態にある妹のサンドラの日々が描かれていくのですが、ある日、サブリナに関する衝撃的な映像を収めたビデオテープがメディア各社に送りつけられてきて──。
ここからの展開が、現代の病理をリアルに突きつけて震撼もの。ラジオで陰謀説をねっとり語りかける男。ネットにフェイクニュースを書き込む連中。容赦なく遺族に襲いかかるメディア。サブリナと会ったことのないカルヴィンでさえ、その毒牙から逃れることはできません。
単純なコマ割や極力描線を排除した画風が、日本のマンガとはあまりにも違うのでとまどう読者がいるかもしれないけれど、このミニマムな表現だからこそ、ここに出てくる人々、ここに描かれている出来事は、わたしたちのそれへと簡単にすり替わるのだということを雄弁に伝えるんです。世界からの高評価もむべなるかなの逸品!
著◎ニック・ドルナソ
訳◎藤井 光
早川書房 3600円