連載「相撲こそわが人生~スー女の観戦記』でおなじみのライター・しろぼしマーサさんは、企業向けの業界新聞社で記者として38年間勤務しながら家族の看護・介護を務めてきました。その辛い時期、心の支えになったのが大相撲観戦だったと言います。家族を見送った今、70代一人暮らしの日々を綴ります
1.兄は警察に保護されていた
前回、認知症の母が統合失調症の兄と一緒に歩いていたら交通事故に遭い、母が救急車で病院に搬送され、付き添っていたはずの兄が行方不明になったことを書いた。私は当日は間に合わず、翌朝病院に駆けつけて初めて、病院に兄がいないことが発覚したのだ。
病院の支払いを終えて母のいる階に戻ると、看護師さんが、面会のフロアで母にお茶を飲ませて、話し相手になってくれていた。なんとありがたいことだろう。
病院の前で待機しているタクシーに乗り、母と自宅に戻ると、兄のケアマネジャーさんとヘルパーさんは家の中にいた。キーボックスから鍵を取り出して先に入ったらしい。ケアマネジャーさんは、「家の回りから押し入れの中まで見ましたが、お兄様はいませんでした」と報告してくれた。
私は「警察に連絡します」と言った。母は「お腹が空いた。コンビニ行く」と言い出した。
その時だった。電話が鳴り、出ると他の市にある警察だった。兄を保護しているので、迎えに来てくれと言うのである。
兄は家に帰ろうと、一晩中方向が分からないまま歩いて、喉が渇き、自動販売機を見つけた。お金を投入したがコーヒー缶が出てこず、自動販売機を蹴飛ばしていて、警察官に注意され、保護されたのである。投入したお金が少なかったのでコーヒー缶が出てこないのは当たりまえだ。自動販売機は警察のあるビルの傍だった。兄は自宅の電話番号と住所を警察官に伝えたのである。