厚生労働省が令和4年に実施した「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、令和4年12月31日時点の医師の数は343,275人だったそう。そのようななか、長年高齢者医療の現場に携わる精神科医・和田秀樹先生は「今の大学の医学部では『いい医者』に育てられるような教育はほとんど行われていない」と厳しく指摘しています。今回は、和田秀樹先生の著書『ヤバい医者のつくられ方』より一部引用、再編集してお届けします。
臨床能力がなくても論文をたくさん書けば教授になれる
国公立大学の医学部で教授になっているのは、その大半が論文を多く書いた人です。逆にいうと臨床を真面目にやっている人は論文を書く暇などないので、教授にはなれません。
つまり、大学の医学部では、臨床能力の高い人より、論文をたくさん書ける人のほうが出世する、というのが「常識」です。それこそが医学部を「研究重視・臨床軽視」の傾向に陥れている最大の理由なのです。
テレビドラマにもなった山崎豊子(やまさきとよこ)氏の『白い巨塔』という小説では、いろいろな欲が渦巻く教授選のことが描かれていて、主人公の財前五郎(ざいぜんごろう)はその腕のよさが前教授に嫉妬されて、教授になる道を邪魔されていましたが、この小説が書かれた1960年代当時はまだ、国公立大学でも手術のスペシャリストのような人が教授になることが多かったと聞いています。
国公立大学の医学部の場合、新しい教授は、ポストに空きが出たときに医学部全体の教授会によって選ばれるのですが、以前は前任の教授に気に入られている人のほうが有利だったのです。だから、臨床での腕のよさが実際には前任の教授に高く評価され、それが決め手となって次の教授に選ばれるということもけっこうあったのではないかと思います。