(イラスト:はしもとゆか)
内閣府の「高齢社会白書」(令和3年版)によると、65歳以上の女性が介護が必要になる原因のうち、「骨折・転倒」は2位。骨密度の低下による高齢者の骨折はよく知られていますが、実は転倒や転落、スポーツににる衝撃もリスクとなります。家事の最中、朝の散歩で…その激痛は、思わぬ時にやってきました。海野清美さん(仮名・愛媛県・年金生活者・85歳)は、風の強い日に朝の散歩に出かけたところ――

朝の散歩中に大腿骨骨折。思いと体の動きはバラバラで

親の介護に夫の介護とずっと気の張る日々を過ごし、3年前に夫を見送った。虚脱状態の私を心配した娘や息子が県外から来て、葬儀後の煩雑な手続きをしてくれたり、話し相手になってくれたり、風景写真の撮影が趣味だった夫とよく行った場所にも連れて行ってくれたりした。

泣いても地団駄踏んでも、死んだ人は連れ戻せない。でもこの世からあの世へ行くことは可能。ならばこの世で楽しく明るく生きて、あの世で夫にしゃべりまくろう。「もう、お母さん一人で大丈夫だから」と、子どもらには感謝して帰ってもらった。その頃に始めたのが、朝の散歩だった。

忘れもしない2023年12月14日の早朝。その日は、かなり風が吹いていた。ベッドの枕元にある夫の写真に、「風が強いしどうしよう」と話しかける。内心ひるんだが、風に負けてたまるかと外に出た。

小高い丘を開発してできた大規模ショッピングモールを一周するのが日課。背を丸めて風をかきわけるように上り坂を頂上まで行くと、今度は下り坂だ。すると背後から強い風が吹いてくるではないか。

「あら、どうしよう、どうしよう」と思っているうちに、足の運びがどんどん速くなる。「止まらなければ」という心の叫びも空しく、まるであやつり人形のように風に弄ばれる始末。