店の利用客から従業員が迷惑行為を受ける「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題として注目されています。4月1日から、全国初のカスハラ条例が東京都や北海道などで施行されました。「悪質なカスハラ」と「耳を傾けるべき苦情」の違いに悩む方も多いのではないでしょうか。大手百貨店で長年お客様相談室長を務め、現在は苦情・クレーム対応アドバイザーとして活躍する関根眞一さんは「カスハラに対抗するためには実態を知り、心構えを持つことが必要」と指摘します。そこで今回は、関根さんの著書『カスハラの正体-完全版 となりのクレーマー』から、一部引用、再編集してお届けします。
突然の呼び出し
私が百貨店を退職する直前に出会った、思い出深いクレーマーのお話をします。その方との出会いは閉店した直後の21時5分。宝石売り場からお客様相談室に電話が入りました。「お客様が怒っている、責任者を呼べ」とのこと。事務所には私の他に事務員がいましたが、帰り支度の最中でした。対応できるのは私しかいないので1人で出向いたところ、そこに、濃紺のTシャツを着て、年齢の判断が付かない男が立っていました。
体格が良く目つきは鋭く、腕っぷしも太く短髪、得体のしれない感じがありました。その男の発した最初の言葉は「あんたは、必ず俺の前でボロを出すよ」。そして、1メートルもない距離から睨まれました。私は恐怖を感じました。
恐怖の理由は、年齢が想像出来ないことからだろうと思いました。話をしても、決して歳をとっているようには感じないが、隙がなく、落とし穴を用意されているように感じました。それに、怒っている理由を話してくれません。興奮して苦情を大声で言うのであれば、その対応は心得ているのですが。
私と男は店の通路で睨み合うような形で非常に近い距離に立っていたため、圧力もすごく、押しを感じました。こんな輩は初めてで、ここは時間をかけて相手を観察することに決め、「手強いが何とかなる」と感じるのに10分も費やしました。その間、「あんたは、必ず俺の前でボロを出すよ」と、また男は意味不明なことを言います。再びの言葉に、暗示に掛からないよう警戒しました。