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漢方薬に対して「飲んでみたが効かなかった」「エビデンスがないしあやしい」というイメージをお持ちの方もいらっしゃることでしょう。しかし「漢方薬にはエビデンスが数多く存在し、漢方薬の効き方が一定でない背景には、腸内環境の乱れが深く関わっている可能性がある」と指摘するのは、サイエンス漢方処方研究会の理事長で医師の井齋偉矢先生。そこで今回は井齋先生の著書『漢方で腸から体を整える』から一部抜粋・再編集してお届けします。

漢方薬は問題が生じている根本に働く

従来の西洋医学は、ほとんどが対症療法に終始しています。一般的な風邪(感冒)に対しても、あたかも「熱を下げたら風邪が治る」「咳を止めれば気管支炎が治る」と考えているかのように、解熱剤や咳止めの薬が処方されます。

ですが、熱を下げたり咳を止めたりしても、大もとの問題が解決しているわけではありません。西洋医学では大もとを治す手段がないのです。せいぜい抗菌薬を使って原因になる細菌を減らしていきますが、それも一時的な火消し効果でしかなく、根本的な治癒にはつながりません。場合によっては、抗菌薬で腸内細菌がやられることによって腸内環境が乱れて免疫力が低下し、症状が悪化する可能性も出てきます。

これに対して漢方薬は一日で熱を下げます。一服で咳を止めます。なぜなら、体の大もとの治す力を回復させるからです。人間は誰でも「治す力」をもともと持っています。漢方薬は、それを引き出すことによって薬効を発揮するのです。

つい最近も、原因不明の咳に悩まされて苦しんでいたという人の話を聞きました。3か所の医療機関へ行き、咳止めの薬を処方してもらったものの、まったく症状が改善されなかったと言います。それでも「時間とともに少しずつ症状が鎮まって、1か月ほどで治りました」とのこと。「もっと早く先生に相談して、漢方薬の効果を知っていれば、あんなに苦しい思いをしなくて済んだのに」と悔しがっておられました。

確かに、日本呼吸器学会の咳のガイドラインには、咳止めは効かない薬の代表のように書いてあります。西洋医学は咳に対してお手あげということです。