「団塊の世代」が全員75歳以上となる2025年。後期高齢者の増加を背景に、「住み慣れた家で最期を迎えたい」と考える人も増えています。医師の姉による仕切りのもと、がんになった母を在宅で看取り、家族葬で送ることになった尾崎英子さんは「大切な人の旅立ちを見守るということは、どんなに準備しても不安がつきまとうもの」と話します。そこで今回は、尾崎さんの著書『母の旅立ち』から、一部引用、再編集してお届けします。
「これが最後だと思って」
日帰りの予定だったので、15時の新幹線に乗りたいと思っていた。
1時間ほど滞在して、「そろそろ帰るわ」とわたしは一緒にいたようこ姉に言ってから、母にもお別れの挨拶をしようとした。
脳転移の後に、ようこ姉から家族を見送るうえでの大事な話をされていた。
最期の時に立ち会うのはとても難しいということ。
「だからこそ、毎回別れる時、これが最後になるかもしれへんと思ってお別れしてちょうだい。これまでの経験上、いつ旅立つかはご自身で決められているように思うんやわ。ずっとご家族がそばにいたのに、ちょっとシャワーを浴びていた間に一人で旅立たれる方もいるし、逆に家族みんなが揃った瞬間に逝かれる方もいる。
だから、たとえ最期に立ち会えなくても後悔することはないんよ。
会えた時に、これが最後だと思ってお別れしておけばいいんよ」
そう聞いていたので、わたしはこれが最後になるかもしれないという気持ちで挨拶しようと思った。
「お母さん、わたしそろそろ帰るね」
母に顔を見せた瞬間だった。
母の口がひょっとこのように歪んだのだった。
「ちょっ! お母さんが!」