最後のお別れを

そばにいたようこ姉が母の顔を見て、「麻痺や」と冷静に言った。

「ど、どういうことなん?」

「脳腫瘍のせいで麻痺が起きてるんやわ。ほら腕も、足のほうまで波及してきた。全身性の痙攣になった」

そう説明してくれるが、わたしはパニックだ。

『母の旅立ち』(著:尾崎英子/ CEメディアハウス)

「救急車を呼んだほうがいいんちゃうの?」

「なんでえな。ここで救急車を呼んだところで病院で亡くなるだけやで。痙攣がひどくなってるし、息も小さくなってきているね。このまま亡くなると思うから、お父さんを呼んできて」

その時1階でスタッフから説明を受けていた父を、わたしは急いで呼びに行き、部屋に連れてきた。

突然のことに慌てふためきながら、父は母のそばに駆け寄った。

「もう亡くなりそうだから、最後のお別れをして。耳は聞こえているから。お母さん、大丈夫やからね。1人じゃないよ。みんな一緒にいるよ。心配しないで、そばにいるからね」