(撮影:本社 奥西義和)

 

八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助襲名披露の『七月大歌舞伎』(大阪松竹座、7月5日~24日)に出演する中村隼人さん。歌舞伎では重要な役を次々と担う一方で、放送中の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』に出演。池波正太郎原作の『鬼平犯科帳』で知られる人気キャラクター、長谷川平蔵を演じて話題になっています。着々と活躍の場を広げる気鋭の31歳。芸への思いは―。(構成=飯塚友子 撮影=奥西義和)

かっこいい平蔵を

長谷川平蔵といえば『鬼平犯科帳』です。大叔父の萬屋錦之介から中村吉右衛門のおじさま、松本幸四郎のお兄さんが演じてきました。『べらぼう』のお話をいただいた時は、「男臭い、かっこいい平蔵」をこの年齢で演じるのかと思ったんです。

平蔵が「本所の銕(てつ)」と呼ばれていた若いころから演じられると聞いていたので、いろいろ演技プランを考えていました。でも、かつら合わせの時に、「普通の平蔵だと面白くない」ということで、監督から「シケ(乱れ毛)」を提案されました。歌舞伎だと色気を出すときに使うのがシケです。

撮影するたびに監督さんが「シケ、どうしますか?」と言うので、歌舞伎では絶対やらないことをやろうと思って、シケを吹いてみたり、触ってみたりしました。自分としてはかっこいい平蔵を演じたいんですが、演出側は平蔵をダサくしたい(笑)。そのせめぎ合いが毎回あります。でも、この制約の中で芝居をするのがまた面白いんです。

平蔵は吉原でカモにされて散財し、一時期公式SNSでも「カモ平」と言われたりしました。お茶目な人物ですが、仕事ができるところは出したい。だから、仕事の時はシケを出していません。平蔵は全てにおいて真面目。遊びも真面目だから、行き過ぎて野暮になったり違う方向に行ったりする。バカ真面目な人が失敗すると面白いじゃないですか。そういう感じを大事に演じています。

『べらぼう』は、近年では描かれなかった吉原の光と闇をくっきり描いている。平蔵は、視聴者の方の箸休めになればいいと思っています。