(写真提供:Photo AC)
日本発の音楽文化として、世界で人気のバーチャルシンガー「初音ミク」。その生みの親であるクリプトン・フューチャー・メディア株式会社の代表取締役・伊藤博之さんは、初音ミクを「クリエイターにとっての音楽仲間のごとく、作品創りに寄り添い、想いをかたちにする存在」と言い表します。今回は、伊藤さんの著書『創作のミライ-「初音ミク」が北海道から生まれたわけ』から一部を抜粋し、再編集してお届けします。

万人に音楽創作の機会を与えられるテクノロジー

AIの普及は、音楽を創るという行為自体も変えていくように思います。

音楽を創ったことがあるという人は、総人口に占める割合で言えば、決して多くはありません。もちろん趣味で音楽を創る人は増えてきたと思いますし、ネットにそれを投稿する活動をしている方もたくさんいます。けれどそういう人が大多数かと言えば、おそらくそうではない。

また、いまの時代は、音楽を創るということが、コンピュータを使いこなす技術と非常に連関しているという状況にあります。

コンピュータのソフトウェアやオーディオ・インターフェースのデバイスに詳しくて、それをどうつなげてどう操作すればいいかわかる。トラブルシューティングもちゃんとできて、動かないときや音が出ないときにはきちんと対処できる。そういうノウハウやコンピュータのリテラシーを持っている人が音楽を創る上でとても有利になっている。

音楽を創るためにはまずはコンピュータに強くなろうという、そこのハードルが高い時代になったのです。

それもあって、音楽を創る人には男性が多い傾向があります(2024年のSONICWIREにおける購入者の割合は、推定で男性が77%、女性が23%です)。と言っても、男女差を考えたときに、男性のほうが圧倒的に音楽を創るセンスが優れているかと言えば、おそらくそうではない。男性のほうがコンピュータを使いこなす方が多い傾向があることが、音楽を創る人に男性が多いことの要因になっているのではないかと推測しています。

すなわち、音楽を創る環境がジェンダーギャップをもたらしているとも言える。AIが普及することによって、その傾向が弱まる可能性があるのではないかと思っています。

それだけでなく、子どもやお年寄りにとっても音楽を創るという行為が容易になっていくかもしれない。既存のDTMのシステムとAIが組み合わさることによって、万人に音楽創作の機会を与えられるテクノロジーになっていくことを期待したいと思います。