新・心とからだの養生学
(イラスト:末続あけみ)

最高気温が年々更新され、もはやこれまでの暑さ対策が通用しなくなってきました。ときに命を奪うこともある熱中症。一方で、正しい知識を持てば防げる病でもあるのです(イラスト:末続あけみ 取材・文・構成:菊池亜希子)

これまでの対策が通用しなくなっている

ここ数年、激化する猛暑に日本中が戸惑っています。熱中症による救急搬送者数は年々増加し、2024年5~9月には全国で10万人に迫るほど。なかでも高齢者(65歳以上)が6割近くを占めました。

さらに、救急車が駆けつけた場所で最も多かったのが住居。全体の4割に及びます。

「暑さを感じない」「電気代がかかる」などの理由でエアコンの使用を控えることが多いのも、高齢者が屋内で熱中症にかかりやすい要因です。以前は窓を開けて風を通し、扇風機を回せばしのげていたとしても、昨今の酷暑にエアコンなしの対策は通用しません。

「熱中症は“熱”に“中(あた)る”病です。熱によって体のどこが一番ダメージを受けるかというと、脳。熱中症は脳の病気なのです」と、兵庫医科大学医学部の服部益治先生は強調します。

「脳卒中や脳症と同様、熱中症は脳細胞を壊し、死に至ることも。死を免れても、意識障害や麻痺など、重度の後遺症が生涯続くことがあるのです」(服部先生。以下同)

では、熱にあたると、なぜ脳が損傷するのでしょうか。

「脳が最も熱に弱い器官だからです。人間は一定の体温の範囲内でしか生きられない恒温動物。40度を超えると脳細胞が破壊される危険が生じます」

熱中症のサインは、頭痛と倦怠感。ただ、こうした症状を風邪と勘違いしがちなのが落とし穴です。風邪の多くは喉の痛みや咳、鼻症状を伴います。それらがなく、急に頭痛や倦怠感を覚えたら、まずは熱中症を疑いましょう。

ちなみに日本では、発熱するとおでこを冷やす習慣がありますが、「あれは間違いです」と服部先生。

「高熱の際は、脳へ流れ込む熱い血液を冷やすことが先決です。ですから頸動脈(首の両側)、両脇、鼠径部を冷やしてください」

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