(写真提供:Photo AC)
厚生労働省が発表した「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、2040年度には約57万人の介護職員が不足するとされ、人手不足が深刻化しています。そんななか、介護問題の取材を行うノンフィクションライター・甚野博則さんは、「介護する側も、される側も『地獄』状態なのが今の日本の介護システム」だと語ります。今回は、甚野さんの著書『衝撃ルポ 介護大崩壊 お金があっても安心できない!』から一部を抜粋し、ご紹介します。

老老介護における「5つの壁」

介護の現場で高齢者同士が直面する問題は、身体的な負担だけではない。かつて取材をした70代の夫婦は、自ら体験した5つの問題について語っていた。

この夫婦は当時、年金収入だけで生活していたが、一つ目は経済的な問題に直面したという。夫の木村吉夫さん(仮名)は、妻を介護している。だが、介護用品や医療費が家計を圧迫し、生活費を切り詰めなければならない状況に陥ったと振り返った。

「このままでは自分たちの生活が立ち行かない」

当時、木村さんはこんな不安を漏らしていた。

木村さんは食事の準備や洗濯、掃除といった日常の家事全般を一手に引き受けている。それに加え、妻の食事介助や入浴の補助、排泄の世話など、24時間体制での介護が必要だ。70代という高齢でありながら、体力的にも精神的にも限界が近づいている。腰痛や膝の痛みに悩まされ、自身の健康も不安視しているが、休む暇もない。

「介護サービスを利用したいが、費用が心配だ」

そう木村さんは何度か語っていた。介護保険制度を活用すれば、訪問介護やデイサービスを利用できるが、自己負担額が家計を圧迫する。厚労省の「令和3年度介護給付費等実態統計」によれば、介護サービス利用者の自己負担額は平均で月額約2万円。この金額は、年金収入のみで生活する木村さんにとって大きな負担となっていた。

経済的な問題は、積み重なると大きな出費となる。介護用品や医療費についても同様だ。紙おむつの購入や介護用ベッド、車椅子などのレンタルには費用がかかる。これらの費用は介護保険で一部補助されるが、それでも自己負担が生じる。

木村さんが言う。

「毎月の出費が増えれば、貯金も底をつく。そう考えると不安になります」