歌手、俳優の美輪明宏さんがみなさんの心を照らす、とっておきのメッセージと書をお贈りする『婦人公論』に好評連載中「美輪明宏のごきげんレッスン」。8月号の書は「どうぞお先に。おそれ入ります」です。

年相応に何をするにもゆっくりと

今年5月、90歳になりました。以前から慢性気管支炎など身体の不調を抱えつつ、なんとか迎えた卒寿。今では年相応に、何をするにもゆっくりです。

町では、若い人がイヤホンやヘッドホンをつけ、まわりに注意を払わずに歩いていますし、なかにはスマートフォンを見ながら歩いている人もいるご時世。いっぽう「ゆっくり派」は、散歩中も転ばないように慎重に歩き、後ろから人が来たらよけるようにしていらっしゃるのでは。

私の場合、心ならず人の行く手を遮ってしまったときは、「おそれ入ります」と挨拶をして、先を譲るようにしていました。「すみません」では、悪いことをしたようでへりくだりすぎですし、優雅さに欠けますから。