(写真提供:Photo AC)
「**は健康によい」「**を食べると痩せる」など、世の中には様々な健康情報が広く流布しており、何が正しい情報なのか分からないという方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、東京大学大学院総合文化研究科の坪井貴司教授、寺田新教授による共著『よく聞く健康知識、どうなってるの?』から、科学的根拠や理論に基づいた健康知識を一部ご紹介します。

体内でもっとも豊富なタンパク質

私たちヒトの体は、約37兆個の細胞でできています(1)。この莫大な数の細胞を一つの多細胞生物、つまりヒトとして形づくるためには、細胞と細胞の間や組織と組織の間をつなぎとめるための物質が必要です。ただし、つなぎとめるといっても、瞬間接着剤やセメントのように細胞同士をガチガチに接着しているわけではなく、柔軟性を保ちながら細胞同士を接着する必要があります。このようなことを可能にしている物質が、細胞外マトリックスと呼ばれるものです。

細胞外マトリックスは、細胞がいる場所に必ず存在するため、私たちの全身のあらゆる臓器に分布しています。私たちヒトの場合、細胞外マトリックスの主成分は、コラーゲン(タンパク質)、グルコサミノグリカン(多糖)、プロテオグリカン(糖タンパク質)などです。これらは、生体組織を支持するだけでなく、細胞の増殖、分化、遺伝子の発現調節制御といった、細胞が生存するための環境を整えています。そのため、細胞外マトリックスは、傷の治癒や生体防御、がんの転移や加齢といったさまざまな生命現象に関与しています。

突然ですが、私たちの体内でもっとも豊富にタンパク質のある場所はどこでしょうか? 私たちの体を構成しているタンパク質の約3分の1は、実は細胞外マトリックスにあります。

私たちの体の表面や臓器の表面を覆っている細胞層のことを上皮組織と呼びますが、この上皮組織の多くは、基底膜と呼ばれる、厚さが約60─120ナノメートル程度の細胞外マトリックスの構成成分がシート状になった網目構造の上に存在しています。たとえば筋組織では、基底膜が筋細胞を取り囲んでいます。これにより筋細胞が収縮と弛緩を繰り返す際に細胞膜が傷つくことを防いでいます。

ヒトの細胞外マトリックスを構成するタンパク質のなかで、一番多いのがコラーゲンです。コラーゲンはその種類によって、構築する線維構造が大きく異なります。1型コラーゲンは、もっとも豊富な型で、長い線維構造を構築します。2型コラーゲンは、より網目に近い構造を構築します。たとえば、筋肉と骨を結びつける腱の主な成分である1型コラーゲンは、引っ張られても壊れることなく伸びることができます。

一方、軟骨組織は、2型コラーゲンと粘性が高いプロテオグリカン(コンドロイチン硫酸やヒアルロン酸)などで構築されており、大きな変形力に対して抵抗できるようになっています。なお私たちの体内には、これまでに約28種類のコラーゲンが同定されています(2)が、そのうちの約80─90パーセントは、この線維状コラーゲンとも呼ばれる1型と2型コラーゲンです。

なお、お肌、つまり皮膚に着目すると、皮膚の土台を作る真皮には1型コラーゲンが、真皮と表皮を隔てる基底膜には4型と7型のコラーゲンが存在します。7型コラーゲンは、基底膜と真皮をつなぎとめる役割をしています。いずれのコラーゲンも真皮から表皮への栄養補給などを調節するなど、重要な役割を果たしています。