公演が7本中止!この状況を数字で見ると
大学卒業後、広告代理店勤務などを経て、現在、グロービス経営大学院大学で准教授を務める武井涼子さん(49歳)は、マーケティングが専門だ。その一方、数々のコンクールで入賞を果たし、二期会に所属する声楽家としても活躍している。
「私の場合、公演が7本中止になりました。1つの曲を準備するのに2ヵ月、3ヵ月かかることはざらにある。それがバンバン飛んでいる状況です」(武井さん)
そんなころ、知り合いのピアニストが漏らした一言が引っ掛かった。「このままでいくと、来月、僕が音楽でもらえるのは5万円だけだ」
音楽家や舞台関係者の多くはフリーランス。公演中止の補償はない。だが、どの程度の影響なのか。誰も把握できていなかった。マーケッターとしての武井さんの勘が働く。
「『数字がない』と気づいた。簡単に答えられて必要なデータが取れる調査票を作りました」( 武井さん)
調査は音楽家や舞台関係者らを対象に3月4〜7日に実施。2637人から回答を得られた。
「政府は3月10日に緊急対応策第2弾の発表を予定していました。当時、定量的なデータはほかになかったので、その前にどうしても情報をまとめる必要があった。急いでやった甲斐があって、各方面で資料として使っていただけたらしいと聞いています」(武井さん)
調査によれば
▽3月の家計を収入で賄えるフリーランスは11.8%のみ。18.1%が同月の借金をすでに予定
▽フリーランスが住居と職業を現状維持できる限界は「3月まで」が28.6%、「4月まで」が36.3%。合わせて64.9%――。
衝撃の数字が並ぶ。
「今、最も影響を受けているのは、これまで演奏や舞台だけで生活できていた『中堅どころ』の人たちです。別の仕事を始めると、そのまま芸術の世界から離れることになりかねない。これでは日本の文化は駄目になってしまいます」(武井さん)
調査は役割を終えた。武井さんはすでに次の段階に進んでいる。
「補償や助成の情報をまとめたウェブサイトを作ろうと動いています。もう一つ、私たちには演奏の場が必要。音楽家は誇り高い人たちです。施しよりは場を選ぶでしょう。何より私自身も歌いたい」(武井さん)