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3月には小中高校の一斉休校、イベントの中止などが相次いだ。景気への影響も出ているなか、すでに生活を直撃され、苦境に立たされている人も多い。コロナ危機があぶり出した日本の労働環境の問題点に迫る。前編は「中高年労働者」「外国人労働者」「非正規労働者」が直面している問題を取り上げる(取材・文=片田直久)

旅行業一本で身を立ててきたが

「希望とは、『……だから』持つものではなく、『……にもかかわらず』持つものだ」――『はてしない物語』で知られるドイツの児童文学者ミヒャエル・エンデの言葉だ。

新型コロナウイルス関連感染症による国内での感染者は1953人、死亡者は56人に達した(3月31日現在。厚生労働省発表)。いまだ収束の気配すら見えない状態が続く。政府は3月の月例経済報告で景気の基調判断を下方修正。6年以上続けてきた「回復」という表現も削除に踏み切った。2019年10月の消費増税以降、冷え込み始めた景気を感染拡大がさらに引き下げている。

不況は弱者を叩く。日々の暮らしを何とかやりくりしてきた人たちの足元がおぼつかなくなり始めている。「にもかかわらず」希望を手放さない人たちの声を拾うことにした。

「たとえ明日、経済が破綻したとしても、僕は日本に住み続けます」

流暢な日本語で気丈に語るのは狭山博志さん(仮名・56歳)。中国・上海市出身。留学のため、1988年に来日した。航空会社を経て、2006年に東京都内の旅行会社に正社員として転職。訪日旅行のエキスパートとして海外からの観光客を相手に日本滞在時のあらゆる手配を手掛けてきた。04年に日本国籍を取得。

00年代から狭山さんらが先駆けとなって、中国や東南アジアから多くのツアー客を獲得してきた。ガイドの育成まで手掛けている。本物のパイオニアだ。業界内に知己も多い。

ところが、今年2月。転機が訪れた。コロナを理由に会社から「調整解雇」を言い渡されたのだ。「『ピンチはチャンス』と思いたい。でも、年齢のことを考えると、どこまで頑張れるか。会社に対しては『なぜ、今?』と尋ねたい気持ちでいっぱいです」(狭山さん)

感染拡大の影響は確かにあった。ダイヤモンド・プリンセス号での集団感染が報じられて以降、花見シーズンの予約が次々にキャンセル。それ以降の見通しも立っていない。

「07年ごろはすごく景気がよかった。会社の業績には私もずいぶん貢献してきました。当時の蓄えは十分にあるはずです」(狭山さん)

狭山さんの目はすでに次のステージを見据えていた。

「『終わらない宴会はない』――中国のことわざです。いつかお別れのときは来る。でも、会社とはあまりいい別れ方ができなかった。同時に解雇された日本人社員のことも心配しています。65歳までは旅行業界で現役を続けたい」(狭山さん)