旧カールス・プラッツ駅舎にて(写真提供:『これが規格外の楽しみ方! たくおん式なるほどクラシック』/KADOKAWA)
ストリートピアノや動画配信でクラシック音楽への関心が高まっている昨今。YouTubeチャンネル「TAKU-音 TV たくおん」での総再生回数1億超え、公演チケットが3分で完売など、世間の注目を集めているピアニスト・石井琢磨さん。そんな石井さんが、クラシック音楽の魅力と新しい楽しみ方を提案した著書『これが規格外の楽しみ方! たくおん式なるほどクラシック』より、一部を抜粋して紹介します。石井さんがオススメする、あまり知られていないクラシックの珍名曲とは――。

とんでもなく長い作品で《いやがらせ》!?
天才の変わった作品
『ヴェクサシオン』E.サティ

同じ旋律を800回以上奏でる―サティ(1866〜1925)の『ヴェクサシオン』はまさにそこに《珍》ポイントがあります。

何度も同じ旋律が繰り返されるものだから、「世界一長い曲」なんて称されることもあるくらい。テンポの指定がないため、18時間で済む人もいれば、25時間くらいかかる人もいて、幅があります。

『ヴェクサシオン』というタイトルは、「いらだち」や「苦しみの種」など、さまざまな意味に訳すことができます。「いやがらせ」なんて和訳もあるそう。

たしかに52拍ある1分程度の旋律を840回も繰り返すんですから、まさに《いやがらせ》ですよね(笑)。

そもそもサティの作る音楽は、どこか変わっているものが多いんですよね。たとえば『ジムノペディ』第1番なども、ハーモニーにどこか浮遊感があって、いつ終わるのか終わらないのかがはっきりせず、演奏会でもお客さまが「え、終わった?」「今、拍手してもOK?」と思ってしまう。この不思議な空気感がサティっぽいなあと思います。