(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
どのような人でも、少なからずファッションに惹かれる面を持っているものです。その心理について、ファッション・ジャーナリストの久保雅裕さんは「トレンドや自己表現の手段としての服の力を借りて、自身に幸福感をもたらすツールであることを無意識に感じているのだろう」と語ります。そこで、久保さんの著書『アパレルビジネス』から一部を抜粋し、再編集してお届けします。

団塊世代がマーケットの主役に踊り出た

バンバンというフォークデュオが歌った『いちご白書をもう一度』というフォークソングをご存知でしょうか。

主人公の大学生が、就職が決まり、長髪を切ってきた時に「もう若くない」と彼女に言い訳するという、ちょっと照れ隠しのような歌詞なのですが、70年安保の学生運動の嵐が過ぎ去り、高度経済成長期で豊かになっていく日本の姿を大学生の変節になぞらえています。この歌はそんな世相を反映し、うまく表現した歌詞で大ヒットしました。

戦後から日本が復興へと立ち直っていく時代に幼少期を過ごした団塊世代は、日々の生活が目まぐるしく変化し豊かになっていく様を見つめていった世代でもあります。一方で「二度と戦争を起こすまい」との深い反省から、社会の在り方やそれを決する政治に対しても団塊世代の若者たちがポジティブに関与していった時代でもありました。

その70年安保闘争の挫折と、日々の暮らしが豊かになっていく中で、社会に対する不満が萎み、経済が発展することが人々の幸せにつながる唯一の道だと思うようになっていったのでしょう。