各地でクマによる人身被害が後を絶ちません。しかし実際のところ、クマはどのようにして人を襲うのでしょうか? 今回は編集プロダクション・風来堂の著書『ドキュメント クマから逃げのびた人々』から一部を抜粋し、実際にクマに襲われた当事者の生の声をご紹介します。
東区でヒグマが人を襲ったのは143年ぶり
札幌市は北海道内でもっとも人口が多い196万人。言うまでもなく道の行政・経済・文化の中心地だ。市内は、ゴムタイヤで走る市営地下鉄3路線が整備され、市民の重要な足となっている。コロナ禍の2021(令和3)年6月18日。地下鉄東豊線・新道東駅付近の住宅街にヒグマが現れ、道警に第一報が入ったのは午前3時30分頃。
同じく東豊線の元町駅から栄町駅の地下鉄3駅分の範囲を走り回りながら、ヒグマは男女4人を襲って重軽傷を負わせた。札樽道、新道が上下に重なる道幅4車線の太い道路が横切る街なか。ヒグマはさらに北上し、栄町駅近くの陸上自衛隊丘珠駐屯地の正門を突破した。
丘珠空港を北東の方角に抜け、逃げ込んだと思われる茂みの上空には、道警のヘリコプターが低空飛行し、市の職員や猟友会のメンバー、警察官が集結して大捕り物を繰り広げたのち、午前11時15分頃に駆除されるまでの約8時間。道内のテレビ番組は緊迫した様子をライブ中継で伝える特番を組み、テロップには「このあとどうなる!?」の文字。多数の警察車両によるマイクでの呼びかけとともに、東区や北区の住民に避難を促していた。
札幌市の市域は広い。昨今、度々報じられる「札幌でクマ」というニュースの大半は、定山渓や藻岩山など、山地エリアだ。
札幌市東区でヒグマが人を襲ったのは、1878(明治11)年、戦前に発生したクマ被害三大事件の一つとも呼ばれる、札幌村・丘珠村(当時)事件以来、実に143年ぶりのこと。現在の東区住人たち、いや、札幌市民の誰もがその事件の記憶がリアルにあるはずもなく「山のない東区にクマが出るとは」と驚きを隠せなかった。