イメージ(写真提供:Photo AC)
高齢者が高齢者の親を介護する、いわゆる「老老介護」が今後ますます増えていくことが予想されます。子育てと違い、いつ終わるかわからず、看る側の気力・体力も衰えていくなかでの介護は、共倒れの可能性も。自らも前期高齢者である作家・森久美子さんが、現在直面している、96歳の父親の変化と介護の戸惑いについて、赤裸々につづるエッセイです。

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エアコンが苦手な年寄りは多いようだ

北海道も今夏は非常に暑い日が多かった。しかし、私とおしゃべりをするのを楽しみにしている父が気がかりで、私は足繁く老人ホームに向かった。

気温が33度の日の午後3時。ホームの受付で入館手続きをして、エレベーターを待っていた。すると、隣にならんだ杖を突いた女性が、私の腕に軽く触っておっしゃった。

「あなた、風邪を引くわよ。寒いのに、こんなに腕を出して大丈夫なの?」

私はハンカチで額の汗を拭いながら言った。

「今日は真夏日で、外はとても暑いんですよ。ノースリーブがちょうどいいです」

「え? 外は暑いの? 知らなかったわ」と、その女性は驚いたご様子だ。

ホームの共用部分は適度に冷房が効いているからか、女性は薄手の長袖のブラウスにベストを重ね着している。入居者は圧倒的に女性が多いが、そういえば半袖を着ている人を見たことがない。一方、エレベーターや廊下で「腕を出して寒くないの?」と私に聞いてくる人は一人や二人ではなかった。

居室内には個別に温度設定するエアコンがついている。父はまたエアコンを切っているのだろうか。ドアをノックして「久美子だよ」と声をかけると、「入りなさい」と返事があった。

ドアを開けると案の定、室内はムアッとしている。テレビの横にある置き型の温度計の表示は、28.5度。空気を入れ替えるためにベランダの窓を開けてから、エアコンの表示を見ると、やはりオフになっていた。

「パパ、こんな暑い日にエアコンをつけないと、熱中症になるよ!」