日本映画もまだ捨てたもんじゃない
大楠 かおりちゃんとはテレビドラマでの共演はあるけど、映画は今回が初めてよね。でも、何の違和感もなくて。
桃井 何の緊張もなく(笑)。大楠さんとは若い頃から飲んだり話したりの付き合いがあるから“肌慣れ”しているのと、私が珍しくちゃんと尊敬している人なわけ。たとえば、2年前にあるドイツ映画の台本が私に来て。とてもいい映画だけどこの役は私じゃないなあと思った時に、「これ、やってみない?」と勧めたくなる人なの。「英語喋んなきゃいけないの、ヤダ~」って断られたんだけどさ。
大楠 そうだったわね。
桃井 今度の映画は、(石橋)蓮司さんの主演で、大楠さんはその妻役、私と(岸部)一徳さんが怪しげな友人役じゃない。でも大楠さんは最初、「私、出なきゃいけないの?」という感じだったから、「やって! 大楠道代じゃなきゃ、イヤ!」って私、阪本(順治)監督に頼んだの。やっぱり蓮司さんと一徳さんに伍していく女というと、私たち二人じゃないとダメだと思ったんだよね。それは(松田)優作にとっても(原田)芳雄にとってもそうだったようにさ。
大楠 そうなのかなあ。
桃井 この映画では「青春時代を忘れられずに生きている大人たち」の足跡というか、残骸のようなものが描かれていて、テーマとしては重い。決して単純に明るい映画ではないんだけど、だからこそ、立派な“甲殻類”という佇まいの我々4人が、それぞれの人生を普通に生きてます、って雰囲気になるのがいいじゃん。
大楠 そうね。最近では珍しいくらい“大人”な映画なのは確か。
桃井 見てもらえばわかるんだけど、いま映画で主役を張っている俳優たちがたくさん出演している。はっきり言って、この映画に出てギャラをたくさんもらえるわけじゃないのよ(笑)。でもなぜ出るのかといえば、阪本監督や蓮司さんという“人”に、映画を愛する俳優が集まった。
大楠 どの俳優も、一人ひとりがいい加減な気持ちで出ていないのよね。主役級の物語がそれぞれの登場人物にあるから、この人たちすべての人生をもっと見てみたいなと思った。試写を観てすごく面白かったわ。
桃井 私も、まだ日本映画は捨てたもんじゃないと思いましたよ。
大楠 今の日本では私たち世代が観るような映画がなかなかないでしょう。なんで日本はこんなお子ちゃま社会になってしまったのかしら。もう少し前までは、ちゃんとした大人の男と女がいたのにね。
桃井 みんな逝ってしまって私たちが残ったの! 日本には「若いことはいいことだ」みたいな価値観があるでしょう。そもそも、それがおかしい。よく「若いですね」って誉め言葉で言われるけどすごく変な感じでさ。だって若くないし。
大楠 まあ、そうよね。(笑)
桃井 逆に「元気ですね」だと、「私、いくつだと思う?」って、おばあさん自慢になっちゃったりもするわけよ。年を重ねるってもう少し素敵なことにできるはずなのに、素敵じゃないことだと、なぜみんなが思い込んでいるのか。だって今のほうが若い時より数段いいよね。好きなこと言えるし……まあ、私たちの場合、若い時から言えてたけど。(笑)
大楠 言ってたし、いろいろやってもいたわよね。