ピカピカしたヒーローには感情移入できなくて
大阪で生まれ育った僕は、ほかの多くの子どもがそうだったように、小さい頃から吉本新喜劇が大好きでした。小学5年生くらいの時にはダウンタウンさんに夢中になり、その頃から夢は芸人になることで、自分で考えたネタをノートに書いたりして。
一方、中学時代に読書の面白さにも目覚めました。国語の教科書に載っていた芥川龍之介の「トロッコ」を読んだ時、主人公の少年の心情がまるで自分のことのようによくわかり、とても驚いたんです。それで芥川のほかの作品も読んでみて、僕は本を読むのが好きなんだなあと気がついた。
でも、僕の家は本がたくさんあるような家ではなかったし、本好きの友達がいたわけでもない。サッカー部だったんですけど、本を読んでいるやつは珍しいくらいで。最初は教科書しか手がかりがないわけです。
自分が面白いなと思う小説の作者を国語便覧で調べてみると、どうやら、このへんに載っているいかつめの顔をした作家が僕は好きなんやとわかってきた。芥川や太宰治、尾崎紅葉、泉鏡花、森鴎外、夏目漱石、谷崎潤一郎……、面白いと思った作家の作品を次々読んでいきました。
みんなとサッカーしたり、遊んだりするのも楽しいけど、一人でいるほうが自分には合ってるのかな、という自覚はありました。小さい頃、友達とヒーローごっこする時、順番に役を取っていくじゃないですか、「俺、レッド」とか。僕は、取ったことないんです。3人いたら3番目、5人いたら5番目でした。ピカピカしたヒーローは、あまりにも自分と共通点がなくて、感情移入できなくて。水木しげる先生の『ゲゲゲの鬼太郎』とか、ちょっとダークヒーローみたいなものに憧れていました。
保育所の先生に、「いつも後ろにいたらあかん」と言われたことがあったけれど、僕自身はストレスを感じていなくて、そういう役回りだと思っていたんです。でも、「そっか、人についていっているだけ、と思われるんや」と、自分の感覚と人が感じる印象は違うこともあると気づいた瞬間でした。