「お笑いをしている時の自分は外に向かって開いている感じ。一方、小説は自分のために書いている。人のためにこんな量を書くのは難しいという気がします」

 

それでも、書くこと自体は好きなので、吉本の雑誌で毎月400字くらいのコラムの連載をしていました。読者の人気投票で1位を10回獲ったら5000円もらえるんです。10年で30回くらい1位を獲ったので、1万5000円くらいですね。原稿料はありません。別の月刊誌でも、6~7年連載しましたが、2500字をノーギャラでやっていました。

いや、もらえるものならもらいたいですよ。創作に対価があることはありがたいですし、そうあるべきだと思います。でも僕の場合は、どっちみちやりますね。もし芸人以外の職業だったとしても、絶対何かしら書いていたと思います。「やらな、無理」っていう体質なんでしょう。

自分が面白いことを言って、誰かが笑った時の開放感よりも気持ちいいことってあんまりなくて、お笑いをしている時の自分は外に向かって開いている感じ。一方、小説は自分のために書いている。人のためにこんな量を書くのは難しいという気がします。自分の抱えているフラストレーションを、息継ぎするみたいに書くことで出さないとしんどくて、それが表現にがっているんです。

 

どうしても自分のことを書いてしまう

小説として最初に発表したのは芥川賞をいただいた『火花』でしたが、実は先に書き始めたのは、2作目の『劇場』でした。『火花』は漫才師が主人公だから自分の知っていることを頼りに書けたけれど、『劇場』は演劇の世界を描くために取材する必要もあって、時間がかかりました。それに、恋愛小説なのですが、僕は恋愛が何なのか、よくわかっていなくて。わからないからこそ関心があり、書きたいと思ったんです。

『劇場』又吉直樹 新潮社

この作品が映画化され、間もなく公開されます。過去に受けたインタビューでは、「これは僕の話ではないです」と語ってきました。でも、映画を観たら、「俺の話だよね、これ」「身に覚えがありすぎる」と(笑)。一人称で書く作家の私小説を中学時代から好きで読んできたし、そこから逃れようとしても、結局自分のことを書いてしまうのでしょうか。