(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
中学受験指導スタジオキャンパス代表の矢野耕平さんは、衣食住は満ち足りていても、親が子どもに関心を持てない状態のことを「ネオ・ネグレクト(新しい育児放棄)」と定義し、「富裕層といわれる家庭であっても見られる現象である」と語ります。そこで今回は、矢野さんの著書『ネオ・ネグレクト 外注される子どもたち』から抜粋し、実際にあったネオ・ネグレクトの事例をご紹介します。

タワマン独特のコミュニティ

かつて、タワマンに入居するある女性と話していたときに冗談っぽく、「タワマンって世間のイメージとは全然違いますね。『縦に伸びている長屋』だと思ってください。内部の住人同士の交流は活発で、噂話なんて一気に広まりますよ」と言われた。

たとえば、コロナ禍で学校が休校を強いられているときなどは、「当番制」で互いの子どもたちをそのご家庭で預かることもあったという。

いまの日本に失われつつある「共同体」が、最先端の街で息を吹き返しているのだ。

しかしながら、このタワマン独特のこういうコミュニティに属すことができないと、途端に「孤立」するリスクが高くなるという。

一棟のタワマンに数百〜数千戸が入居しているが、その堅牢な構造のせいで、互いの生活音などまったく聞こえない。さらに、どこで何をしているのかが可視化されづらい環境ゆえ、人間関係の基盤が早期に構築できないと、まったくの「他人」になるのだという。

東京湾岸地域にある一棟のタワマンの自治会の運営に携わる男性は語る。

「わたしのマンションでも子育て世代の中には孤立している人たちが確かにいます。そこで、自治会がその人たちにどうアプローチをするかということを結構考えて、いろいろな試みを講じてきました。でも、そういう人たちにとって、良かれと用意した場が何だか面倒くさい、鬱陶しいもののように捉えられる傾向が強かったなんてことがありました。ですから、なかなか上手くいかない。この点は難しいですよね」