一人芝居『小間使いの日記』の一場面(1983年)
女優の吉行和子さんが2025年9月2日に逝去されました。享年90 。吉行和子さんと半世紀にわたる深い親交のあった、エッセイストの関容子さん。初舞台から観ているという吉行さんの女優としての歩み、そしてプライベートでの交流を綴ります

前編よりつづく

ありきたりにうまくないところ

7年ほど前に、和子さんと小林薫さんの対談を、私が司会したことがあった。

『少女仮面』の話になって、「唐(十郎)さんが、『吉行がわかんないから俺の芝居をめちゃくちゃにしてる』って(笑)」と和子さんが言い、「だって、吉行さんのありきたりにうまくないところを見込んで、鈴木(忠志)さんがスカウトしたわけでしょうから」と私が言うと、突然和子さんが私に向き直って「あなた、昔から私のこと下手だってよく言ってたわね。薫さんもそうよ(笑)」となった。

すると小林さんが、「久世光彦氏が『吉行は下手だよな』と愛をこめて笑うのを聞いて、僕もこのことをいつか使いたいと思っていた。その後、和子さんの何かのパーティーでスピーチの時に『吉行さんは下手ですから』と言ったところ、あとが続けられないくらいその場がシーンとなった」と話す。

そこで私が「下手とか不器用ということは、純粋とか無垢とか、いいほうに置き換えられますね」と言い、「まぁ、そういうふうに思ってくださる方がいるから、この歳まで役者をやってこられたんですけど」と、和子さんが喜んでくれて、私の永年の言いわけをここで果たすことができたのだった。