和子さんからの最後のLINE
岸田今日子さんが健在だったころ、吉行和子、冨士眞奈美との女優三人旅のテレビ番組があった。台湾への旅の時、今日子さんが誘ってくれて、私も同行したのが今では一番の楽しい思い出となった。
その時、旅先で句会が開かれて、和子さんが中国茶の茶会のことを詠んだ。「難しき作法のありて……」と書いているのを横で見て、「ややこしき作法」のほうがいいんじゃない? と言ってみると、「そうね」と素直に直してくれた。和子さんは人に直されるのが嫌いで、絶対に受け容れないのに、今思えば珍しいことだった。
和子さんの俳名は「窓烏」――マドガラスと読む。将来、いくらか見られるような句が詠めるようになったら、ソウウと読んでもらうと言っていたが、初めからとてもいい句があったと思う。私の好きな句。
秋の陽を瞼に乗せて駱駝ゆく
遊べやと黄泉に誘う昼の月
和子さんが体調を崩して、自室にこもるようになって以降はずっとLINEで会話を続けていた。私が『婦人公論』で「名優たちの転機」を連載するようになってからは、取材準備にずいぶん協力してもらって、ありがたかった。