MARUU=イラスト
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。六年ぶりに健康診断を受けた阿川さん。大腸の内視鏡検査ではろくな思い出がないのだそうで――。
※本記事は『婦人公論』2025年11月号に掲載されたものです
※本記事は『婦人公論』2025年11月号に掲載されたものです
六年ぶりに健康診断を受けた。コロナ騒動の前に受けたきり機会を逸していたが、「いい加減にしなさい!」という各所からの圧力に屈し、重い腰を上げた。
この歳になれば身体のどこかしらに不具合が生じるのは当然だろう。若い頃のように内臓も筋肉も血管もピンピン元気なわけがない。むしろ七十年の長きにわたり、一刻たりとも動きを止めず、懸命に働き続けているだけで奇跡と言えよう。巨大な水道管が破裂する事故のニュースを見るたびに、腕や心臓のあたりをさすりさすり、「ありがとう、ありがとう」と感謝の意を伝えつつ、秘かに具合を案じてはいた。
さりとて検査した結果、余計な病気が発覚するのも嫌だなあ。どうせなら見つからないほうが楽かしら、なんて気持もあり、ぐずぐずしていた次第である。
が、いよいよ覚悟を決めて専門のクリニックに予約をすると、基本的検査の内容と、オプションコースを示される。胃カメラ、心電図、身体測定、聴力、視力、尿便検査などが基本コース。加えて私は骨密度と、頸動脈や乳腺、子宮のエコー検査を申し出た。すると、受付にて、
「事前に採取して検査当日にお持ちください」
渡されたのは、検便キットと採尿キットである。
以前、数年に一度受けていた健康診断では、大腸の内視鏡検査をしていたので知らなかったが、つまり内視鏡検査のかわりに検便をするしくみになっているらしい。
