検査の日が迫り、いよいよ便を採取するべきときが訪れる。おもむろにキットの封を切り、まずは説明書を読む。なになに、細長い収納容器の蓋に棒がついていて、それを使って便をこそげ取り、再び容器に収めろと。
「なにしてんの?」と家人が覗き込むのを、「いいから。あっちへ行って」と追い返し、再び説明書を熟読する。
なになに、同封された特殊なシートを便器の内側に敷き、沈まないよう念のためトイレットペーパーを敷き詰めて、その上にそっと添付のシートを乗せろと。なるほど。
そして実行。途中、大量すぎてシートごと沈んでしまわないかとヒヤヒヤしながら無事排出し、さあ、採取である。
説明書に従って、容器の蓋についた棒で採取しようとするけれど、これがなかなか難しい。適量を取り上げるのが至難の業である。詳細ははぶくが、とにかく難しい。しかもようやく取り上げて、それを細い容器にはみ出さぬよう収納するのも、これまた難しい。何度もやり直すうち、じわじわとシートが沈んでいく。まるで沈没しかけた客船の乗員を救助するような気持になる。待て、待て待て。まだ沈んではならぬ。
どうもすみませんですね、な話ばかりで。でも、これから検査をしようとする方がいらしたら、参考になるのではと思いまして。
マッチ箱に採取していた時代のほうが、よほど簡単だった。そう若者に話したら、
「ええー、昔はマッチ箱に入れて学校へ持っていったんですか? それって、ウチにあるマッチ箱に?」
「そうよぉ」
自慢げに答えてみたものの、はたしてどうだっただろう。学校で配られたマッチ箱だったのか。しかも便を入れたマッチ箱をなにに包んでランドセルに入れ、どうやって先生に渡していたのだろう。ラップなどない時代に。もはや記憶は曖昧だ。でもマッチ箱に採取したことだけは確かである。
