世界でもトップクラスの長寿国となった日本。しかし、「より良く生きる、自分らしく最期まで、と言いながら、老い方・死に方を知っている人は多くない」と語るのは、病院の臨床で15年以上働く看護師の高島亜沙美さん。そんな現役看護師の高島さんが教える、老いと死のプロセスと終末期の現実を綴った『人生の終わり方を考えよう 現役看護師が伝える老いと死のプロセス』より、一部を抜粋して紹介します。今回は、高島さんが日本人の終活が進まない理由の一つと感じている「日本人のネガティブ・ケイパビリティの乏しさ」について。
日本人とネガティブ・ケイパビリティ
ネガティブ・ケイパビリティという言葉、みなさんご存じでしょうか? ネガティブ・ケイパビリティとは、不確実な状況や答えのない問題に直面した際に、すぐに結論を出そうとせずに、その状態を受け入れる力を指します。
この概念は、もともと19世紀のイギリスの詩人ジョン・キーツによって提唱されました。シェイクスピアの数々の作品の中に存在していたこの概念を、キーツが見出すのです。
その170年後、英国の精神分析医であるウィルフレッド・R・ビオンによってはじめて、ネガティブ・ケイパビリティが言及されます。彼は第一次大戦中に軍人を経験し、英軍十字章を授与されるほどに活躍しました。
復員後、彼はオックスフォード大学に赴きます。彼はそこで歴史学を専攻し、次に他の大学で近代史を学び、そこの指導教官に影響され哲学にも触れます。その後、精神分析医を目指すのです。今の言葉で言うと、文系も理系もどっちも修めたという感じでしょうか。
こういう経験と教養を修めたビオンが、キーツの発見したネガティブ・ケイパビリティを精神医学の世界に復活させました。