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阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。遅い夏休みを取って、六年ぶりの海外旅行へ行ってきた阿川さんは――。
※本記事は『婦人公論』2026年1月号に掲載されたものです
※本記事は『婦人公論』2026年1月号に掲載されたものです
遅い夏休みを取って夫婦でイタリアに行ってきた。長期にわたる円安のせいで海外へ行くことが躊躇される。「ハワイへ行ったらラーメンが三千円もした」なんて話を聞くたびに恐れおののいて、海外への夢は当分、封印するしかないと思っていた。が、諦めているうちにじわじわと歳を取った。夫婦ともども七十を超えたのだ。そうなると、また別の考えが浮かんでくる。
仕事を始めて四十年。これまでまとめて夏休みなんぞを取ったことはない。連載の原稿やテレビ番組の収録日が立て込んでいると、数日間連続で休暇を取るのは難しい。そんな日常に加え、なぜか七十歳になってからレギュラーの仕事が増えた。ますます休みを取りにくくなった。
仕事があるのはけっこうなことだ。こんな歳まで使ってやろうと思ってくれる人がいるだけで幸せではないか。需要があるかぎり、そして自分自身に働く意欲があるかぎり、加えて健康であるかぎり、仕事を続けられるというところが、私のような受注系自由業の特典である。ありがたやありがたや。そう思う反面、少しずつ体力が落ちていることも気にかかる。
