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<いつも緊張して気が休まらない><人の反応を気にしすぎてしまう>…。「こうした日常の“生きづらさ”の背景には、子ども時代や過去の経験で受けた心の傷=かくれトラウマが影を落としているのかも」と指摘するのは、トラウマケア専門「こころのえ相談室」代表で、公認心理師の井上陽平さん。今回は井上さんの著書『かくれトラウマ 生きづらさはどこで生まれたのか』から一部を抜粋し、「家庭内虐待」についてご紹介します。

「躾・教育」と誤解される「虐待」のリアル

虐待とは、子どもの心や体が、本来あるべき成長を妨(さまた)げられてしまう行為のことを指します。

それが故意であろうと、無意識であろうと、関係ありません。どんな形であれ、子どもの人格や尊厳を深く傷つけ、時には長い年月にわたって深刻な影響を残します。

虐待にはいくつかの形があります。

殴る、蹴る、叩く、物を投げつけるなどの「身体的虐待」、怒鳴る、無視、脅す、暴言、兄弟姉妹との極端な差別、過剰な干渉など、心を追い詰める「心理的虐待」、子どもに対して性的な行為や言動を強いる「性的虐待」、そして食事を与えない、病院に連れて行かない、学校に行かせないなどの「ネグレクト(養育放棄)」です。

子ども時代にこうした体験をした人は、大人になってから、うつ病や不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)といった精神的な苦しみを抱えることがあります。最近では、脳科学の研究により、虐待の影響が脳の萎縮や機能異常といった形で現れることもわかってきました。

時に、これらの行為は「躾(しつけ)」や「教育」と誤解されることもあります。でも、暴力や支配によって子どもをコントロールしようとした時点で、それは立派な「虐待」です。

虐待がもたらす影響はすぐに現れるものではないかもしれません。しかし、誰かと一緒にいても安心できない、人を信じられない、自分の感情がわからなくなる――。

そんな形で、子どもの人生に深い影を落とします。

なぜ心が苦しいのか、説明できない日もあります。周囲は理解できなくても、あなたの中では、過去の経験がたしかな現実として残っている。

でもその痛みは比較で軽くなるものではなく、記憶と反応として今日まで連れてこられたものです。だから、今の自分を否定しなくても大丈夫、と最初にお伝えしたいと思います。