仕事、家事、恋、子育てと、日常を駆け抜けていらっしゃるお嬢様方、おかえりなさいませ。今夜も、執事がとっておきの短歌をご用意いたしました。お疲れの心にひとさじの癒やしになりますよう、どうかごゆっくりお召し上がりください。さて、本日はどんなお嬢様からのお呼びでございましょう……

専業主婦は何も生み出さない――?

良妻であること何で悪かろか日向の赤まま扱きて歩む  『紅』

今回呼ばれましたのは二児のママでありますお嬢様。一人おうどんの昼ごはんを済まして、スマホ片手に、何やら憂鬱な様子で……。


朝早くからお子様と夫君にお弁当を作って送り出し、大量の洗濯物を洗い、部屋のお掃除、疲れていらっしゃるのでございましょうか? いやいや、それだけではない様子。どれどれ、お行儀が悪いながらスマホの画面を覗かせていただきましょう。

む、これは専業主婦叩きのページ!「専業主婦は寄生虫」「女さん乙」「俺らはまんさんのA T M」 そんなもの見ても無駄でございます。心が汚れていくだけ。でも、どうしても見ずにいられないのはなあぜなあぜ? 

ふむ、キャリアウーマンの同じママ友に似たような嫌味を言われたと? 専業主婦は何も生み出さない。ぬくぬくと夫のお金で過ごしているだけ? キ―――! そんなの放っておいていいではありませぬか! でも、気になってしまう? 周りのママ友の多くも働いているなかで、なんで専業主婦? と言われることも多いと。それは、家庭それぞれの事情や役割のあるなかで、お嬢様の選択ではありませんか。夫君もそれを望んでいらっしゃいますし、お子様の教育のためにも、お嬢様もこの生活を有意義に感じていらっしゃると思っておりました。そんな他人の声、えい! えい! とスマホを殴っても、固いばかり……。
よし! ここは全身歌人と呼ばれた河野裕子さまのお歌のお振舞いでございます。


どちらもお嬢様のような、主婦のありようを歌った歌であり、また当時、批判の的ともなった歌でございます。河野裕子さまはご自身の「妻として、母として生きる」ことを生涯のテーマとされ、専業主婦、専業歌人として活動されました。そこには並々ならぬ熱量があったことは言うに及ばず。しかし、他に生業を持っていたり、独身であったり、文学に身を投じる覚悟で子を持たぬ選択をした女性歌人の中で、反発を買うことも多々あったと思われます。しかしこの歌には「私はこうだ」というような、当時のフェミニズムという名で女性同士を分断する流れに一石を投じるものでもあったでしょう。