東京の二つの塔
先日、某局の番組の撮影で、都内の屋外数ヵ所でイス飲みをするという企画があった。私を含む大人3人が東京でそれぞれの気になる場所や好きな場所へ赴き、そこで折り畳みのイスを広げ、缶ビールや缶チューハイ片手に語り合う、という趣旨のものだ。
じっとしていても毛穴から汗がじわじわ出てくるような暑い日ではあったが、おかげで摂取したアルコール分は瞬く間に排出されるし、縛りのない好き勝手な雑談の企画は、コロナ禍で誰かと会って外で飲むという機会を奪われていた私としては、単純にありがたかった。
東京は自分の生まれた土地だが、暮らしていた期間はそれほど長くはないし、17歳で日本を離れてからは当時バブルの只中にあった東京という街の変化に追いついていくことができなくなった。しかし、今回こうして思いがけず、何十年ぶりで長く東京に滞在していると、それまで気にならなかったような事柄にも意識が向かうようになる。それがまさにこの番組の趣旨だった。
まず最初のイス飲みの場所として選ばれたのは、隅田川の河川敷だった。そこに座って真正面にそびえ立つスカイツリーを見つめながら、昔ながらの東京の風情が漂う下町との景観のコントラストについて語り合った。スカイツリーは東京のランドマークと言われているが、どうも私の中では東京タワーを凌駕できていない。
この二つの塔はそもそも比較の対象とするべきものでもないのかもしれないが、にしても、スカイツリーの、建物の大きさに比例しない微弱なオーラの理由は何なのか。と、そんなことを缶ビール片手につらつら語っている出演者の前を、労働者風の真っ黒に日焼けしたおじちゃんや、同じく労働者風の、猫車を押すサンバイザーを装着した年輩女性が通り過ぎていった。
経済大国の象徴たる巨大建造物と、アサヒビールの黄金の雲(別名黄金のう○ち)モニュメントをバックに、地面に近い場所で働く謙虚な佇まいの人々が行き交うその情景に、アルコールの混じった吐息が漏れた。