作家の温又柔さん(右)と、外国人支援事業を行っている田中宝紀さん(左)(撮影:本社写真部)
先ごろ発表された第37回織田作之助賞を受賞した温又柔(おんゆうじゅう)さんの『魯肉飯(ロバプン)のさえずり』。日本で暮らす台湾人の母とその娘が抱える葛藤を描き、受賞に際して温さんは「この小説は異国で子育てしているお母さんたちにささげた物語」と述べました。温さんは、3歳のときに台湾から来日。以降、日本で暮らすなかで、日本人が持つ《普通》という概念に戸惑いを覚えたといいます。そんな《普通の日本人》による価値観が、国内で暮らす海外にルーツを持つ人たちを苦めたり、暮らしを困難なものにしていたりすることについて、外国人支援事業を行っている田中宝紀(いき)さんと語り合いました。(構成=和田靜香 撮影=本社写真部)

自分は《日本語育ち》

田中 2015年に私がSNSで発信した「外国にルーツを持つ子どもに、専門家による日本語教育を無償で提供したい」という目的で始めたクラウドファンディングでの資金集めを、温さんが見つけてくださったのが知り合うきっかけでしたね。

 もう5年経つんですね。宝紀さんは「YSCグローバル・スクール」という、海外にルーツを持つ、主に子どもや若者のための教育事業をなさっている。

田中 事業は10年から行っていて、来日直後で日本語がわからない子から、日本で生まれ育って日本語しかわからない子まで、年間120〜130名ほどをサポートしています。私は資金調達も行っているのですが、15年に文部科学省の補助金が打ち切られたため月謝制を導入することにしました。そうしたら、スクールに通って来る子どもたちの3割ぐらいは生活困窮世帯のため、来られなくなってしまって。

 私は外国にルーツのある子どもたちが増えているのは知っていたものの、そのすべてが安心して日本語を学べるわけではないという現実を知り、改めてショックを受けました。

田中 温さんのご協力もあり、最終的には目標の倍近くの160万円が集まって。

 そのころ私は、『台湾生まれ 日本語育ち』を出版する準備をしていたんです。台湾人として生まれながらも日本語という言葉を支えにしながら生きている自分を《日本語育ち》と表現しようと決めた時、宝紀さんの活動を知って、今、まさに日本で育ちつつあるすべての子どもたちが日本語を学べる環境を整える重要さを思い知りました。

田中 温さんの新刊『魯肉飯のさえずり』を読んだのですが、主人公である桃嘉(ももか)の台湾人の母親、雪穂(ゆきほ)さんの話し方が、私が実際にお会いするお母さんたちと重なって、リアルな声になって響いてきて。

 雪穂みたいにカタコトの日本語をしゃべるお母さんは、今この国にいっぱいいますよね。

田中 はい。暮らしている国の言葉が話せず、伝えたいことを伝えられない苦しみは計り知れません。たとえば中南米出身の方の話なのですが、日本語の力が十分でないため小学5年生の子どもが発達障害と学校から思われ、特別支援学級への転籍を勧められたケースがありました。学校との面談には通訳はおらず、親は「日本語学校のようなもの」と理解して、転籍を了解してしまって。後になってそうじゃなかったと気づき、普通学級に戻してもらおうと学校側と交渉を重ねるもうまく伝わらず、保護者がクレーマー扱いされてしまったということがありました。

 そんなことが……。