編集者で作家、そしてサックスプレイヤー、複数の顔を持つ末井昭さんが、コロナ禍の今、「死」について考える連載「100歳まで生きてどうするんですか?」。日本人男性の平均寿命まであと9年と迫った末井さん。さてどう生きようか……

自分が今年72歳になったということも驚き

年を取るとともに月日の経つのが早くなり、2年、3年はあっという間に過ぎて行きます。ある出来事について、それがいつだったか思い出そうとしたら、2年前のことだったか、3年前のことだったかわからなくなって、調べてみたら4年前だったということがありました。えっ、あれからもう4年経ったのかと驚いたのですが、自分が今年72歳になったということも驚きです。考えてみたら、日本人男性の平均寿命まであと9年しかないのです。

この年になるまで、自分が老人であるとか、いつ死ぬのだろうかとか、まったく考えたことがありませんでした。ぼくが付き合っている人は、男性も女性もぼくより年齢が若いのですが、みんなぼくと対等に付き合ってくれます。だから、あえて自分の年齢を意識する必要もなかったのかもしれません。

人はみな、相手が自分をどう見ているかということを判断して、それに合わせて演技しているようなところがあります。相手が想像していた通りだったら、相手に満足感を与えますが、相手が想像していた人と違うと判断したら警戒されます。

自分が老人として見られていれば、ちょっと咳をしてみたり、ヨロヨロしてみたり、「最近もの忘れがひどくてねぇ」と言ってみたり、「ぼくが若い頃はねぇ」と自慢してみたりすれば、相手は「やっぱり、思った通りだ」と安心するでしょう。

社長に抜擢されたら、威厳があるふうに演技して、みんなからバカ社長と呼ばれないようにしなければならないと考えるでしょう。首相になったら、最初のうちは国会答弁も原稿の棒読みで情けない感じですが、演技しているうちにだんだん首相らしくなって行くものです。

しかし、ぼくはそういう演技ができないんですね。72歳ともなれば、全身グレー系の衣服でも着ればそれなりに老人っぽく見えるのですが、そんなものを着ると気分が落ち込みそうなので、ついつい年齢には合わない派手なものを着てしまうことがあります。「若く見えますね」と言われると、なんとなく本当の年が言いづらくなります。