先ほどの知人が墓を買った時、「末井さんは、お墓どうするの?」と聞かれて、「海に散骨してもらおうと思っている」と言いました。その頃は本当に墓なんかいらない、骨は海にでも、自宅の庭にでも撒いてくれたらいいと思っていたのでした。

末井家の墓は、ぼくが生まれ育った岡山県の山奥にあります。ダイナマイト心中した母親、末井富子の墓もそこにあります。実家はとっくになくなっているので、親戚が年に2回ほど墓の掃除をしてくれています。

末井富子の墓。画家の弓指寛治さん(左)と墓参り(写真提供:末井さん)

夫婦で墓参りしたとき、母親の墓の隣の土地が少し空いているのを見た美子ちゃんが、「お墓作るんだったらここに作ったら?」と言いました。そう言われてすごく寂しい気持ちになりました。

美子ちゃんは悪気があってそう言ったのではなく、ぼくに母親コンプレックスがあるから、母親の隣なら安心して成仏出来るとでも思ったのでしょう。でも、ぼくは華やかなところが好きだから、こんな山奥にポツンといるのは寂しいと思いました。美子ちゃんが、岡山の山奥まで墓参りに来るとも思えません。

神藏家(美子ちゃんの実家)の墓は、雑司が谷墓地にあります。そこには夏目漱石や永井荷風や泉鏡花や竹久夢二などのお墓があって、美子さんのお父さんの墓参りに行ったついでに、文学者のお墓巡りをしたりします。なんとなく華やかで、ここならいいなあと思っています。神藏家の墓の端っこにでも、小さな骨壷を埋めてもらいたい気持ちなのですが、子どもがいないし、友達も少ないので、墓参りに来てくれる人は誰もいないかもしれません。それはまた寂しいものです。だったら、母親の墓の隣に、小さな生前墓でも作ってしまおうかな……。

第2回「〈一瞬の極楽浄土〉に行くことが、ぼくの密かな楽しみ」

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